豆腐のものがたり

豆腐屋の朝は早い。しかし私は早起きが苦手な豆腐屋である。

 

二十数年まで、広告屋の営業マンだった私は、機会を得て名古屋港へ陸揚げされる輸入農産物を取材した。衝撃を受けた。

 

破損した段ボールから白い粉に漬け込まれたオレンジが一部腐乱し、一部は裂けた状態で放り出されていた。ポストハーベストとは防虫剤の漬物なのだと知った。さらに驚いたことに、これは学校給食として出荷されるという。量販店に持ち込めないから給食の材料として「処分」すると。輸入農産物に頼る日本に常識は通用しない。輸入自由化という不自由は、時に子供にすら、過酷な犠牲を強いる。

日本の農業を犠牲にしてクルマや家電を売る政府、地方の票か献金かを天秤にかけて、どっちが自分に都合がいいかで悩む政治屋のみなさん。子供たちの未来の心配も、たまにしてみてはいかがでしょうか。

 

豆腐屋の使命は、生産者の想いを消費者につなぐこと。大豆の自給率が4%を下回る今、豆腐職人に求められる課題は重い。

 

「おい、トフ屋」、「へいっ」。

 

転職した今はこれが心地よい。真鍮のラッパこそ、飾りになってしまったが、うちには見学のお客様が結構おいでになる。今、メーカーは意外に消費者の声が届かない場所にいる。